管理人のハルです。
私は現在、大学には属しておらず病院で普通に理学療法士(PT)をしています。また、当院のリハ課には論文執筆経験のある人がおらず指導者不在の状況です。そのような環境で論文執筆に取り組むのは本当に分からないことだらけで困ります。でも、病院や介護施設などで働くPTは似たような環境の人も多いのではないでしょうか?
そこで、私が今までに研究や論文執筆をしてきた経験を簡単にまとめておこうと考えました。もちろん、大学教員など研究経験の豊富な先生に指導して頂ける環境にある人はそれが一番良いと思います。しかし、相談できない人も多いのではないかと思いますので、そのような方が論文を書く際の一助になれば幸いです。
あくまでも私の体験談(主観)を書いていきますので、もっと正しいやり方とか、効率の良いやり方もあるかと思います。参考程度にご参照ください。
論文執筆までの長い道のり
論文を執筆して、実際に雑誌に掲載されるまでは実に長い道のりです。論文執筆までの流れを簡単に見てみましょう。
・文献検索
・research questionの決定
・研究計画の立案
・倫理委員会審査
・データ収集
・データ解析
・結果の解釈(考察)
・学会発表
・論文執筆
・論文投稿
・accept
と、まあこんな感じです。それぞれ数週から長くて数か月単位で時間がかかるので、論文のacceptまでたどり着くのはかなりの時間を要するわけです。普段何気なくみている論文の一つ一つに、執筆者の努力と情熱が注ぎ込まれています。
論文を書く意味は人によって異なるかと思います。私が論文を書きたいと思う理由は↓記事にまとめていますので興味がある方はどうぞ。
clinical questionの検討
研究は臨床の疑問、つまりclinical questionから始まります。普通に臨床業務を行っていたら何個かは疑問に感じることがあると思います。小さな疑問で全然構わないです。研究は基本的にスモールな思考の方が良く、大きなテーマよりも身近なことをテーマにした方がsomething new(何か新しいこと)にも繋がりやすいと感じています。
文献検索
次に自分のclinical questionに関する文献を調べます。ここはかなり重要ポイントで、該当するテーマについて「何が分かっていて、何が分かっていないか」をはっきりさせるフェーズになります。文献はただ読むだけじゃなくて、レビューシートに記録を残しておきます。とりあえず私は研究計画を立てる段階で30本は読むようにしています。
research questionの決定
文献検索で該当するテーマの「何が分かっていないか」が分かったら、自分の研究で具体的に何を明らかにするのかを決めます。これも大それたことでなく、小さなことでいいと思います。先行文献で限界として挙げられている項目を少しでも解明できれば、大きな前進ですよね。ここが研究の「目的」に当たりますね。
研究計画の立案
research questionが決まったら、今度はそれを明らかにするための方法を考えて計画を練ります。研究期間・対象・アウトカム(指標)・比較方法などを決めます。Feasible(実行可能)であるかが大事です。臨床業務の中でアウトカムをとるので、あまりに手間がかかる作業は長続きしませんし、患者さんや他のスタッフに嫌がられます。計画を練って、必要なアウトカムを見極めます。あと、この時点で医師(できれば博士課程を修了している方)にアドバイスをもらう方がbetterです。
倫理委員会の審査
研究計画が立案できたら、それを書面にして倫理委員会の審査を受けます。最近は倫理委員会の承認は必須です。倫理委員会は病院や施設ごとに設置されています。PT協会でも審査を行ってくれるので、倫理委員会のない所ではそちらを活用すると良いかと思います。研究の方法論だけでなく、研究に至った推移(いわゆる「はじめに」)も考える必要があります。
データ収集
倫理委員会の審査に無事通ったら、データ収集を開始します。前向きで臨床のアウトカムをとる場合は普通に臨床業務をして過ごすフェーズであり、後ろ向き研究の場合はひたすらカルテから情報を集めるフェーズです。データを紙ベースで残すのか、電子カルテで残すのかは事前によく考えておく必要があります。患者さんを実際に評価しながら記載したい場合は紙ベースが楽ですが、あまりに項目数が多いと手間になりますので、ポイントは「研究に協力してくれるみんなが続けられる方法で」行うことです。
データ解析
データが集まったら次はデータ解析です。実際には解析前に、集めたデータをExcelにまとめる作業があり、これに時間がかかります。そしてまとめたデータを統計解析がかけられる形にします。そこまでできればあとはEZR等の統計ソフトで解析します。統計ソフトで統計解析を行うのは比較的短時間で済みます。
結果の解釈(考察)
データ解析を行ったあとは、結果を十分に吟味します。そして結果からどんな結論が導かれるのかを考えていきます。ここは案外時間がかかります。データのサマリー表(結果をまとめた表)や統計解析の結果をじっと眺める作業が続きます。ジーっと眺めていると少しずつデータの特徴がつかめてきて、発表や論文のストーリーもうっすらと見えてきます。
学会発表
結果から導かれる結論が決まったら、次は研究成果を公表するフェーズに移ります。公表する手段は「学会発表」と「論文執筆」がありますが、研究の最終地点はあくまで「論文執筆」です。「学会発表」は聴衆からのアドバイスをもらったり、自分の研究を聴衆へ拡散させる場所と考えても良いと思います。学会発表はもちろんした方が良いとは思いますが、論文執筆に必須というわけではありません。
論文執筆
研究の最終段階として論文を執筆していきます。実際には研究実施段階から少しずつ執筆し始めていた方が良いです。最初に書きやすいのは「目的」「方法」「結果」「結論」です。ここが書ければ論文の骨格は出来上がった状態となりますので、あとは「はじめに」と「考察」をじっくりと書いていきます。具体的な書き方についてはまた各論でまとめていこうと思います。
論文投稿~受理
投稿したいジャーナルの「投稿規定」に沿って論文を修正し、論文を投稿します。そして査読者からOKが出れば無事にacceptとなります。
まとめ
以上、臨床のPTが論文執筆を行うまでの流れを簡単に紹介しました。臨床で働きながら研究を行っていくためににはFeasible(実行可能)であることがとても重要だと感じています。大風呂敷を広げすぎるとうまくいきません。あくまで小さく小さく、を心掛けた方が成功しやすいと思います。
「研究の進め方」や「論文の書き方」についてはすでに沢山の書籍やWebサイトなどでエキスパートの方が説明されていますので、私は周りに研究経験者が少ない環境にいる人が研究を進めやすくするポイントをメインに書いていこうと考えています。