シロート統計学講座 其の12
当講座では以下の4STEPで統計学を学んでおり、現在STEP3まで進めています!!
STEP1 統計解析の種類
STEP2 統計解析の選択方法
STEP3 統計解析の実施方法
STEP4 統計解析の結果解釈
前回・前々回は実際にEZRを使って2つの検定を実施しました。
これらの記事ではEZRを操作してもらいましたが、結果解釈のところである疑問が生じた方もおられるのではないでしょうか。
あれ?P値って何だっけ?
検定では最終的にP値をみて有意差を確認しますが、なぜP値をみることで結果が分かるのでしょうか?そもそもP値とは何でしょうか?
今回はP値の意味をなるべくシンプルに説明しておきます。これが分かると、統計解析の結果解釈への理解が深まると思います。
帰無仮説と対立仮説
P値を理解するためにまず知っておく必要があるのが帰無仮説(きむかせつ)と対立仮説についてです。イメージをもってもらうために例を挙げます。
例えばA群(30人)とB群(30人)で握力を比較する場合を想定してください。A群は平均30kg、B群は平均40kg、であったとします。
この2群を比較する時に考えられる仮説は次の2つです。
(2) 2群間に差がある
群間を比較する際には基本的にこの2つの仮説を立てます。そして、仮説を検証するためには、どちらかの仮説が正しいことを示すか、どちらかが間違っていることを示す必要があります。検定で仮説を検証する場合、後者(どちらかの仮説を棄却することによって、もう一方の仮説を支持する)が行われます。
では、2つの仮説のうち、棄却(仮説を否定)するのが簡単なのはどちらでしょうか。
それは (1) 2群間に差はない です。
今回の場合、A群の平均は30kgなので「2群間に差がない」という仮説通りであればB群が取り得る値は30kgだけです。つまり、B群が平均30kgではないことが示されれば(1)の仮説は棄却できるわけです。
一方、(2)の「2群間に差がある」という仮説では、B群の取り得る値は無限にあります。つまり「2群間に差がある」という仮説は簡単に棄却できません。
これは検定の基本的な方針で、統計解析では(1)の仮説を棄却することで(2)を証明します。(1)と(2)の仮説には名前が付けられています。
→「帰無仮説」
→「対立仮説」
「帰無仮説を棄却して対立仮説を証明する」
これがポイントです。
P値の意味
ここでP値の話に戻ります。P値とは一体何でしょうか。
P値は
帰無仮説が正しい場合に、実際に観察された、あるいはそれ以上の2群の差が観察される確率
参考:フリー統計ソフトEZRで誰でも簡単統計解析(p8)
とされています。
・・が、これだけだと少し分かりにくいですね。
先ほどの、握力を比較する例で考えてみましょう。
帰無仮説は「A群とB群で握力の平均値に差はない」となります。
A群とB群の間で実際に観察された差は10kgですので、帰無仮説が正しいとした時、P値は「握力の平均値に10kg以上の差が出る確率」となります。
P値が0.07(7%)であったとすると「(帰無仮説が正しいという仮説の下で)100回同じことを行うと7回は10kg以上の差が出る」という解釈になります。
そこで、P値がいくらであれば帰無仮説を棄却してよいかを決めるのが有意水準です。つまりP値が有意水準未満であれば滅多に起こらないことが起こっている(つまり帰無仮説が正しくない)と見なす、ということです。
有意水準は
習慣的に0.05(5%)に設定
参考:フリー統計ソフトEZRで誰でも簡単統計解析(p8)
されます。
要するに「(帰無仮説が正しい=両群の平均値は等しいという仮説が正しいとした時に)100回同じことをやって10kg以上の差が出るのは5回未満」であれば帰無仮説を棄却するということです。
ちなみに0.05というのは習慣的に決められているだけで、明確な根拠はないようです。現段階では論文などでも0.05で問題ないとは思いますが、もう少し有意水準を下げた方が良いのではないかという議論もなされています。
正規性の検定でのP値
余談ですが「其の10」で正規性の検定というのを行いました。t検定を行う前に各群が正規分布に従うかどうかを調べる検定です。
正規性の検定はP<0.05であれば「正規分布ではない」と判断できるというものでしたが、、これ「P値が小さいときは正規分布を示すんだったかな?あれ?非正規分布だっけな」と迷うことが多いです(私だけかもしれませんが…)
しかし、P値の意味を理解しておけば迷うことが少なくなります。帰無仮説は基本的に「差がない」という仮説を表しますので、正規性の検定の場合、帰無仮説は「分布の左右差はない」となります。
▼正規分布は左右対象の鐘型の分布▼
P<0.05の時にはその帰無仮説が棄却されて「分布の左右差あり」となりますから「正規分布ではない(非正規分布)」と判断できます。
まとめ
以上、P値について説明しました。
P値に対する誤解を招きやすい点としては
P値は観察された差が偶然によるものとして矛盾しないかどうかだけを検討する値で、実際に観察された差の大きさを判断するものではありません。
参考:フリー統計ソフトEZRで誰でも簡単統計解析(p10)
という点です。
つまりP値が小さいからといって、2群の差が大きいわけではないということです。
また
P値が小さくなかったとしても、それは有意差を検出することができなかっただけであり、2群に差がないと結論することはできません。
参考:フリー統計ソフトEZRで誰でも簡単統計解析(p10)
という点にも注意が必要です。
P≧0.05であったとしても、サンプルサイズが大きくなるだけで容易に変化し得るものです。つまり、P値は統計解析の結果を解釈する際の目安にはなりますが、P値だけで研究を語ることは避けた方がよさそうです。
今回の記事を作成するに当たって参考にした書籍はこちらです。
また、近年のP値に関する誤解については「統計的有意性とP値に関するASA声明」に詳しく説明されています。こちらはASA(アメリカ統計学会)が出したP値に関する声明を、日本計量生物学会が和訳したものです。P値に関する最新の解釈と思われるので、ぜひ目を通してみてください。
EZRの実践を行っている最中ではありましたが、ここで一旦P値の理解をしておいた方が良いと思い、今回の記事を書きました。次回は予定通り「対応のあるt検定」に移ります。
▼其の13に続く▼
コメント
”P値が0.07(7%)であったとすると「100回同じことを行うと7回は10kg以上の差が出る」”とのことなので、P値が大きいほど差が出るように思えます。
しかし、P値が0.05よりも大きいと帰無仮説が棄却できない、つまり差がないということになってしまいます。どのように考えれば良いのでしょうか?
まじだりぃ さん
コメントありがとうございます(お返事が遅くなりました…)。
私もよく混乱しますが、解釈は以下の通りです。
・P値は帰無仮説が正しいという仮定の下での「実際に観測された値以上の差が出る確率」
・P<0.05の場合「実際に観測された値以上の差が出ること」はほとんど生じないはずの現象といえる
・しかし、観測されたデータはそれが起こっている(ほとんど生じないはずのに矛盾している!)
・つまり帰無仮説が正しいという仮定自体が誤っている⇒棄却
なお、ASAのP値に関する声明では、P値は特定の統計モデル(帰無仮説を含む)との矛盾の程度を表す指標とされています。
ですので、P<0.05の場合、統計モデルと矛盾があることは示されますが、必ずしも帰無仮説との矛盾を示すわけではないそうです。
こちら(https://www.biometrics.gr.jp/news/all/ASA.pdf)に詳しく書いてありますので、ぜひご覧になってみてください。
帰無仮説=2群間に差がない が正しいという前提で、p値(2群間に10kg以上の差が出る確率)が5%以下の場合、帰無仮説が正しいことを証明されそうな気がしますが、逆なんですね。
極端な例ですが、p値が99%(ほとんどの確率で2群間に10kg以上の差が出る)の場合は、帰無仮説を棄却できないんですね?
masa0さま
ご質問ありがとうございます。
これは確かに混乱する話ですよね。順序立てて考えると良いと思います。
例えば
・A群 30kg vs B群 40kg で比較をします
・実際の差は10kgです
・検定のため「帰無仮説:両群の差は0である」が真であると仮説します
・その仮説のもとで両群に差が生じる確率(P値)が5%以下であったとします
・「5%以下」というのは「ほとんど起こりえないこと」とみなされます
・実際の差は10kgでした
・帰無仮説を真とした場合、ほとんど起こりえないはずのことが実際に生じてしまっています
・「帰無仮説が真である」という仮説はおかしい!
という流れで帰無仮説が棄却されるということですね。